海底地殻変動でわかった琉球海溝沈み込みの複雑さ

①プレート間カップリングと琉球海溝

海溝で海洋側のプレートが大陸側のプレートの下に沈み込むとき、もしそこに双方が強く固着した場所(カップリング領域)があると、大陸側のプレートもそれに引きづられて収縮し歪(ひずみ)が蓄積します。やがて、その歪に耐えきれなくなると大陸側のプレートは反発し、もとの状態に戻ろうとします。このとき巨大地震が起こります。

 プレート間地震の模式図。大地震と大地震の間のときは、大陸側のプレートが海洋側のプレートに押されて図の左側に動く。海溝から離れるほど動きは小さいので、海溝と陸の間では大陸側のプレートは収縮している。大地震発生時には、反発して、大陸側のプレートは海溝側に大きく移動する。

 

この考えでいくと、海洋側のフィリピン海プレートが大陸側のユーラシアプレートの下に沈み込んでいる琉球海溝(南西諸島海溝)では、巨大地震が発生しても不思議ではなさそうです。しかし、これまで琉球海溝ではプレート間カップリングが小さく海溝型の巨大地震は起こりにくいと考えられてきました。

その一番の根拠は、南西諸島が動いている方向です。島々に設置されたGNSS観測点がユーラシアプレートに対してどの方向に動いているのかを見てみると、南西諸島の島々は南~南東方向、つまり海溝側に動いています。もし琉球海溝にプレート間カップリングがあれば、沈み込むフィリピン海プレートの動きに押されて海溝とは反対方向、つまり北~北西方向に動くはずです。このことから、琉球海溝では海側から沈み込むフィリピン海プレートと陸側のユーラシアプレートとの間にプレート間カップリングはない(固着した場所はほとんどない)と考えられてきました。

 

国土地理院のGNSSでみた西南日本(左)と南西諸島(右)の水平変位(2017年5月~2018年5月)。上対馬を固定している。西南日本では南海トラフでのフィリピン海プレートの北西方向への沈み込みに伴って、陸側のプレートが北西方向に移動している。しかし、南西諸島では、フィリピン海プレートが北西方向へ沈み込んでいるにもかかわらず、南西諸島は南東~南方向に移動している。

 

②海底地殻変動観測から判明した沖縄島付近のプレート間カップリング

しかし沖縄本島沖で行われた海底地殻変動観測からは、琉球海溝の海溝軸付近に置かれた海底局が沖縄島の動きとは異なり北西方向に近づくセンスで動いていることがわかりました(Tadokoro et al., 2018GRL)。これは海底局近傍の海溝軸付近のプレート間にある程度の強さを持つカップリングがあることを示しています。

沖縄島付近のGNSS水平変位(黒矢印)と海底局(RKAとRKB)の変位(赤矢印)。大陸側に対する動きを示している(アムールプレート固定)。

 

③明らかになってきた琉球海溝沈み込み帯の多様なカップリング

最近研究が進展することにより、琉球海溝でのプレート間カップリングが場所ごとに異なり、非常に多様性に富んでいることが分かってきました(Nakamura, 2017 EPS)。

 

琉球海溝(沖縄島付近から八重山諸島)での沈み込んだプレート面上で起こる様々なスロー地震とカップリングの状況。Nakamura (2017 EPS)の図に今回の成果である沖縄島付近の固着域を加えた。

 

まず琉球海溝の浅部(深さ15 kmまで)にはカップリングのある領域(固着域)が分布しています。中部琉球海溝では今回検出しました。南部琉球海溝ではまだ検出されていませんが、1771年八重山津波の波源域にあたっていることから、南部琉球海溝でも海溝軸付近には固着域が分布している可能性があります。

琉球海溝のやや深部(深さ15~50 km)では、中部琉球海溝ではスロースリップイベントが深さ15~25 kmで発生し、その近傍で低周波地震ー超低周波地震が発生しています。一方、南部琉球海溝の場合、深さ15~30 kmより深いところで低周波地震ー超低周波地震が発生しています。スロースリップイベントはそれよりも深いところ(深さ30 km以深)で発生しています。また、中部琉球海溝と南部琉球海溝に共通して、スロースリップイベントや低周波地震ー超低周波地震が起こっている領域と普通のプレート間地震が起こっている領域は重なっておらず、住み分けがみられます。

しかし琉球海溝でのカップリングの状態が大きく空間変化していることは最近分かったばかりで、この空間変化が互いにどのような影響を及ぼしあっているのか、そして海溝付近にあるカップリング領域にどのように影響を与えているのか、わかっていません。これらは沖縄で将来起こるであろう大地震のメカニズムを探る上で欠かせません。