背景
様々な「ゆっくり地震」現象の中で、周期20~50秒の地震波を特に多く放出する現象を超低周波地震と言います。琉球海溝では超低周波地震が非常に活発に発生し、さらに潮汐に応じてその活動が変化することをこれまで明らかにしてきました。超低周波地震は時々、短時間に集中して発生します。その時の地震波形を調べると、超低周波地震が発生している時に低周波地震を伴っていました(図1)。低周波地震とは周期0.2~1秒の地震波を特に多く放出する「ゆっくり地震」です。低周波地震とは、超低周波地震の破壊の一部を見ているといえます(図2)。
低周波地震は発生する地震波の周期が短いので、超低周波地震よりも震源決定の精度を上げることができます。低周波地震の発生位置を正確に決定すると、沈み込むプレートのどこで低周波地震と超低周波地震が起こっているのかを知ることができます。
しかし弱点もあります。低周波地震は非常に弱い信号であり、地表付近のノイズ(木々の揺れ、車などの振動、波浪の振動)が邪魔をしてしまうため、沖縄のような島の環境では低周波地震をとらえるのは困難であると考えられてきました。ところが気象庁の地震計で低周波地震が捉えられていないか調べたところ、上記のように超低周波地震に伴い多数の低周波地震が捉えられていることが判明しました。そこで気象庁の地震観測網および防災科学技術研究所広帯域地震観測網で記録されている低周波地震の解析をおこないました。
低周波地震と超低周波地震の波形
図1(上)低周波地震(2~4Hz)と超低周波地震(0.02~0.05Hz)の波形。1時間の波形中に多数の低周波地震と超低周波地震が見られる。(下)同時刻の低周波地震と超低周波地震の波形。外形(点線)が非常に似ている。
スロースリップイベントと超低周波地震・低周波地震の関係の模式図
- 図2 スロースリップイベントと超低周波地震・低周波地震の関係の模式図。スロースリップイベントの破壊が進行し、縁辺部の超低周波地震を起こしやすい領域に接近すると、その領域が破壊し超低周波地震が発生する。超低周波地震の領域は低周波地震を起こす領域を含んでいて、超低周波地震の破壊が進行するとそれに伴って低周波地震が起こる。
明らかになった低周波地震とスロースリップイベント、プレート間地震の空間関係
低周波地震の位置を決定するのに2種類の方法を用いました。一つは波形の相互相関を用いる方法です(方法①)。もう一つは相互相関に加えてP波とS波の到達時間を用いる方法です(方法②)。後者の方法は約10%の低周波地震で適用できました。方法①から、沖縄島付近では低周波地震が沖縄島南東部と沖永良部島南東沖に、八重山諸島では低周波地震が西表島南方から石垣島南方に集中していることがわかりました(図3)。低周波地震と超低周波地震はスロースリップイベント(図3の星印)が起こった際に発生しています。方法②の結果、沖縄島周辺では低周波地震が沖縄島から約50 km海溝側で発生していました(図4右)。また低周波地震はスロースリップイベント領域(図3右の青色の領域)の周辺で多く発生しています。プレート面でスロースリップイベントが発生することにより、周辺で低周波地震・超低周波地震が誘発されています(図2)。さらにプレート間地震は、スロースリップイベントや低周波地震・超低周波地震の起こらない場所で発生しています。このことは、沈み込んだプレート面の中で起こりうる地震のタイプが場所ごとに異なっていることを物語っています(図5)。
八重山諸島でも、低周波地震・超低周波地震とスロースリップイベント、そしてプレート間地震は互いに住み分けて発生しています(図4左)。ところが八重山諸島では、スロースリップイベントから大きく離れて低周波地震・超低周波地震が発生しています。八重山諸島でも、低周波地震・超低周波地震はスロースリップイベントの発生時に起こっていますが、その位置はスロースリップイベントから40km以上離れた海溝側です。(図5)。
ではなぜ八重山諸島の場合、スロースリップイベントの断層から離れたところで低周波地震・超低周波地震が誘発されるのでしょうか。可能性としては、約40km離れた地点でもスロースリップイベントによって約1kPaの応力増加が起こるので、この応力増加によって低周波地震・超低周波地震が誘発した可能性があります。もう一つは、スロースリップイベントの滑りが八重山の沖合遠くまで進行しており、それが低周波地震・超低周波地震を誘発している可能性です。どちらが正しいのか、まだわかっていません
沖縄島付近と八重山諸島で発生した超低周波地震活動と低周波地震の分布
- 図3 2004年から2015年までの沖縄島付近と八重山諸島で発生した超低周波地震活動と低周波地震の分布。超低周波地震に伴って低周波地震が発生している。超低周波地震よりも位置の精度が向上している。
詳細な低周波地震の分布
- 図4(左)八重山諸島と(右)沖縄島付近での低周波地震活動(丸印)、スロースリップイベント(青いハッチ)、プレート間地震(メカニズム解で表示)の分布。
研究の意義
琉球海溝では長期にわたって、ゆっくり地震(スロースリップイベント、低周波地震・超低周波地震)がプレート間地震発生域の間を埋めるように発生していることが明らかになりました(図5)。さらにゆっくり地震は時間・空間的に互いに影響を与えており、スロースリップイベントは低周波地震・超低周波地震を誘発していました(図2)。
これらのことは琉球海溝でプレート間に歪がどのように蓄積しているのかを探る上で重要な成果です。また海溝軸付近には巨大津波地震を起こした領域が存在します(図5)。周辺で起こるゆっくり地震は、海溝軸付近への応力伝播という形で影響を及ぼしているでしょう。将来起こる巨大津波地震の発生メカニズムを探る上で重要な意味を持ちます。
琉球沈み込み帯でのゆっくり地震と普通の地震との住み分けと誘発関係
- 図5 琉球海溝でのスロースリップイベント(紫色の領域)、低周波地震・超低周波地震(黄色の領域)、通常のプレート間地震(ピンク色の領域)、津波地震発生域(青色の領域)の分布。琉球海溝では深さ15~30kmのところで約数十kmの大きさのこれらの領域がパッチ状に分布する。さらにスロースリップイベントが発生すると低周波地震・超低周波地震が誘発される。低周波地震も近くのクラスター間で活動が移動する現象が見られる。
参考