地震危険度評価方法
1. 定常地震活動による地震発生度の計算
- (1)原理
- 大きな地震は滅多に起こらないが、小さな地震は頻繁に起こる。 この地震の大きさと発生頻度の関係をグーテンベルグ・リヒター則という。 ある地域で、ある期間内に発生する地震のマグニチュード(M)毎の個数N(M)は
次の式で表せる。
log10N(M)=a-bM
ここでN(M)はあるMの区間(M〜M+dM)における個数、a,bは定数である。 b値は普通0.9〜1.0である。これは、マグニチュードが1小さくなると地震の発生
数は8〜10倍になることを意味している。
(図)グーテンベルグ・リヒター則のグラフ。マグニチュードが1 大きくなると、地震の発生数は1/10になる。
係数aとbがわかっていれば、ある地域で、ある期間に発生する大地震の発生数
を予測できる。 そこで、ある地域である期間内に発生した地震のマグニチュード毎
の個数をグーテンベルグ・リヒターの式に当てはめ、係数a,bを求める。 係数aとbから、大地震の発生率を計算する。
係数を高精度で決めるためには、地震カタログ中に小さい地震から大きな地震まで
含まれている方がよい。しかし大きな地震は滅多に起こらないため、
大きな地震の発生数を精度よく予測するには、長期間の地震のカタログを必要とする。
一方、地震観測技術の発達によって、小さな地震を捕らえる検知能力は年々向上している。
沖縄では1988年に観測網が整備され、地震の検知能力が急激に向上した。
そこで、マグニチュード毎に扱う期間を変え、大きな地震は長期間、小さい地震は
最近だけの短期間のデータを使う。
(図)マグニチュードと使用した期間の関係
-
沖縄本島周辺の検知能力の変化
期間 | 検知能力の下限 |
1980-1984 | M4.0 |
1990-1994 | M3.0 |
(2)計算手順
- (2-1)地震を深さごとに分類
- 地震カタログを浅い地震(深さ0-40km)、やや深い地震(40-80km)、
深い地震(80-120km)の3つに分類する。
ただし気象庁カタログをそのまま使用した場合、琉球海溝沿いで発生する地震の中に震源が50km以深に
決まってしまうものがある。このような地震はEHBカタログではほとんど見られない。
これらは震源決定の影響で浅い地震が深く決まったためと考えられる。
そこで、琉球海溝付近で発生した深さ40km以深の地震は全て深さを20kmに固定した。
- (2-2)余震の除群
- 余震の除群(カタログ中に含まれる余震を取り除く作業のこと)をおこなう。
M6以上の地震を全て本震とし、本震の後30日以内に震源からある距離以内で
発生した地震を余震とみなして除去した。ある距離とは余震域と判断される距離
であり、宇津(1961)による
マグニチュードと余震域の大きさとの関係式を使用した。
- (2-3)大地震のマグニチュード
- 1900年から1989年までに発生した地震では、
表面波マグニチュード(Ms)を使用した。
1990年以降では、気象庁マグニチュードで5.5未満の地震については
気象庁マグニチュードを使用した。Mj5.5以上の地震
についてはハーバード大学によるモーメントマグニチュード(Mw)を使用した。
- (2-4)b値(グーテンベルグ・リヒター則の係数)を計算
- 浅い地震、やや深い地震、深い地震について、それぞれb値を計算した。
計算にはmaximum likelihood method(Weichet,1980)を使用した。
浅い地震のb値は平均1.0であった。やや深い地震の
b値は平均0.9であった。深い地震のb値は平均0.8であった。
浅い地震について、南西諸島周辺ではb値が1.1であったのに対し、日向灘から
奄美大島にかけての琉球海溝地域
ではb値が0.9であった。そこで、浅い地震についてはb値を0.9から1.1の範囲で
滑らかに変化させた。やや深い地震のb値は0.9に、深い地震のb値は0.8にそれぞれ
固定した。
- (2-5)a値(グーテンベルグ・リヒター則の係数)を計算
- aの値をsmoothed seismicity(Frankel,1995)を用いて緯度・経度方向に0.1°刻み
で計算した。相関距離は75kmとした。
最大マグニチュードは地帯構造区分(松田,1990)と過去の最大地震を元に設定した。
計算は浅い地震、やや深い地震、そして深い地震の3つに分けておこなった。
図:地帯構造区分と最大マグニチュード
2. 最大加速度・最大速度の計算
-
メッシュ点におけるマグニチュードと加速度評価地点までの距離から、
距離減衰式(司・翠川, 1999)を用いて最大加速度を計算する。
さらに、メッシュ点におけるマグニチュードの発生確率から、ある最大加速度の
発生確率を計算する(Frankel,1995)。
最大速度は最大加速度と同様の方法で司・翠川(1999)による距離減衰式を
用いて計算した。
3. 南海地震による地震動の計算
-
南海地震は和歌山県から高知県の南側海域で平均114年間隔で発生するM8クラスの
巨大地震である。南海地震の発生頻度はグーテンベルグ・リヒターの法則から予測される
発生頻度より高いため、上記の計算では南海地震の震源域周辺での地震動を
過小評価している。
そこで、南海道地震については別途、固有地震モデルによる予測をおこなった。
方法は、まず南海地震発生による地震動(最大速度・最大加速度)を計算する。断層モデルはAndo(1979)を用いた。
次に南海地震発生確率を使って任意のメッシュ点における最大加速度の発生確率を
計算する。ここで南海地震発生はポアソン過程に従うとする。つまり南海地震の
1年あたりの発生確率は常に約1%(=0.877%)として計算を行う。
4. 震度の計算
-
上記の計算で求めた速度の値を次式(翠川・他,1999)で変換して計測震度を求め、震度階級に変換
した。
ここでIは計測震度、PGVは最大速度(cm/s)である。
計測震度と震度階級の関係
計測震度 | 0-0.4 | 0.5-1.4 | 1.5-2.4 | 2.5-3.5 | 3.5-4.4 | 4.5-4.9 | 5.0-5.4 | 5.5-5.9 | 6.0-6.4 | 6.5- |
震度階級 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5弱 | 5強 | 6弱 | 6強 | 7 |
(参考文献)
-
Engdahl, E.R., Van der Hilst, R.D., and Buland, R.P., 1998, Global teleseismic earthquake relocation with improved travel times and procedures for depth determination, Bull. Seism. Soc. Amer., v. 88, pp. 722-743
Engdahl, E.R. and A. Villasenor, 2002, Global seismicity: 1900-1999. International handbook of earthquake and engeneering seismilogy, volume 81A, Elsevier Science Ltd, pp.1-25.
Frankel, A., 1995, Mapping seismic hazard in the central and eastern United States, Seismological Research Letters, Vol. 66, No. 4, pp.8-21
司宏俊・翠川三郎, 1999, 断層タイプ及び地盤条件を考慮した最大加速度・最大速度の
距離減衰式, 日本建築学会構造系論文報告集, 第523号, pp. 63-70
翠川三郎・藤本一雄・村松郁栄, 1999, 計測震度と旧気象庁震度および地震動強さの
指標との関係, 地域安全学会論文集, Vol. 1, pp.51-56
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