沖縄本島南部荒崎海岸のカサカンジャーについて

(地震学とは全然関係ないけど)


 沖縄県糸満市の荒崎海岸には、カサカンジャーと呼ばれる岩塊が海岸にあります。最近、この石がドルメン(人工的に積まれた石造物)ではないかなどと言われています。しかし、この岩塊の起源は球陽(琉球の歴史書)の中に記載されています。球陽には、1832年9月10日の台風襲来時に、この地域に3個の岩塊が打ち上げられたと書かれています。さらに球陽の中には、打ち上げられた岩塊の大きさと海岸からの距離が1個ずつ記載されています。記載されている岩塊の大きさ・位置とカサカンジャーの大きさが似ていることから、打ち上げられた3個の岩の中の1個がこの石であると見られます。

 荒崎海岸で波浪によって作られた地形はカサカンジャーだけではありません。荒崎海岸の波打ち際にはサーフベンチと呼ばれる地形が発達しています。これは強い波が押し寄せる場所で形成される珍しい地形です。カサカンジャーやサーフベンチは、この海岸が強い波の作用によって形成されてきたことを物語っています。


カサカンジャーの位置。


荒崎の拡大地図

 カサカンジャーを北西から見たところ。7m×5m×1.5mの平らな岩塊の下に直径1mの岩塊が挟まっている。平らな岩塊の側面が直角的な割れ方をしているのが特徴的である。ノッチ上部の岩盤がブロック状に崩壊した跡であると見られる。

 カサカンジャーを南東から見たところ。こちら側は全体的に丸みを帯びた形状をしている。海側にせり出したノッチ上部の岩盤(侵食で丸くなっている)と見られる。

 カサカンジャーは全体が角張った形をしているわけではなく、北側側面、西側側面の一部(北側側面に近い側)が角張った形状、南側側面は丸みを帯びた形状をしている。これは、カサカンジャーがもともとノッチ上部の岩盤であったと考えると説明がつく。丸みを帯びた場所は波浪による侵食で、角張った形状の場所はノッチ上部の岩盤がブロック状に崩壊した際できた。


 カサカンジャーの厚さと幅はそれぞれ1.5mと5〜7mである。ノッチ崩落時にできる岩塊の形状研究(Maekado 1991)で導出された計算式を使うと、石灰岩中に亀裂が無い場合、厚さ2mの上部岩塊でできうるノッチの限界幅は8mとなる。これを超えると崩落する。カサカンジャーの幅は厚さ1.5mのノッチ上部岩盤が持ちこたえられる限界幅に近い。このように、カサカンジャーの形状は亀裂のないノッチ上部が自然崩落してできうる岩塊と等しい。よって、カサカンジャーとはノッチ形成によって岩盤が自然崩落してできた岩塊であると考えられる。

 カサカンジャーの北西側の対岸に見られるノッチ(「荒崎の拡大地図」のA)。カサカンジャーのような薄い岩塊はこのようなノッチで作られたと見られる。

 カサカンジャーの西側には、ノッチ上部が一部欠けた場所がある(「荒崎の拡大地図」のB)。おそらく100年前の台風襲来時に、この場所にあったノッチ上部が高波によって剥ぎ取られ、現在の位置に移動したと考えられる。
 ちなみにこの欠けた場所は国土地理院の空中写真でも確認できる(掲載許可を取っていないので空中写真は掲載していません)。欠けた場所の面積はカサカンジャーとほぼ同じ広さである。


カサカンジャーの成因

(1)カサカンジャーの西側海岸に、上盤が海側に大きくせり出した崩落寸前のノッチがあった。
(2)ノッチ上部がブロック状に崩落し、1832年の台風襲来時の高波によって現在の位置まで運ばれた。


荒崎海岸に見られるサーフベンチ(「荒崎の拡大地図」のC)。石灰岩が強い波によって削られる作用と生物の付着保護作用によってできた平坦面。波が強いところでは、サーフベンチのできる高さが高くなる。沖縄本島では、この荒崎以外にも読谷村の残波岬や恩名村の万座毛で見ることができる。

万座毛のサーフベンチ。崖下にできている。

残波岬のサーフベンチ。波をかぶっているところに平坦面ができている。


参考

Maekado, A., Recession of coastal cliff made of Ryukyu limestone: Arasaki coast, southern end of Okinawa Island, Japan, 沖縄地理、3, 63-70, 1991.
島袋直樹、沖縄県の津波石、琉球大学理学部海洋学科卒業論文、1993.


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