沖縄の公共施設の耐震化

 地震災害のとき、公共施設は災害対策の拠点になり、また避難施設として利用されます。このように公共施設は防災拠点として重要です。地震で建物が損壊したのではこの役割を果たせません。そのためには施設の耐震化を進める必要があります。消防庁では防災の拠点となる施設の耐震化状況を調べており、最近では令和2年7月15日に、消防庁から「防災拠点となる公共施設等の耐震化推進状況調査結果」を発表しています。沖縄県の状況はどうなっているのでしょうか。

防災拠点となる公共施設等の耐震化推進状況調査結果の公表(令和2年7月15日)

 https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/hpkeisai.pdf

 まず、防災拠点となる公共施設の中で、昭和56年以前の建築物の占める割合を見てみましょう。昭和56年は建築基準法が改正された年で、耐震基準も旧耐震基準から新耐震基準へと変更されました。昭和56年以降に作られた(正確には昭和56年6月1日以降に建築確認を得た)建築物は耐震性が高いと考えられます。沖縄県は昭和56年以前の建築物の割合が13.8%と全国と比べて最も低くなっています(図1)。

図1 防災拠点となる公共施設における全棟数に対する昭和56年以前の建築物の割合

 

 これは沖縄県の中で、昭和56年以前の建築物(防災拠点となる公共施設)が少ないためです。棟数で比較しても、215棟と全国で最も少なくなっています(図2)。

図2 防災拠点となる公共施設における昭和56年以前の建築物の棟数。

 

  防災拠点となる公共施設耐震率も88.8%です(図3)。耐震率の高い順でみると、この数字は全国で43位です。あまり良い順位ではありませんが、最下位というわけでもありません。

図3 防災拠点となる公共施設の耐震率

 耐震性の低い建物が少ないのであれば、他県よりも対策が取りやすそうです。たとえば沖縄県の小中高校では耐震性の低いブロック塀の比率が全国で最も多かったのですが(52.6%、全国平均24.8%)、2018年6月の大阪北部地震を受けて文部科学省が安全対策を要請して、その約1年後に再び文部科学省が調査したところ、県内国公私立810校中、409校でブロック塀の安全対策が終了していませんでした(沖縄タイムス)。沖縄タイムスの記事によると、なかなか対策が進まない理由として「県内ではブロック塀のある学校の割合が高く、対策が必要な数が比較的多いという事情もある」という県教育庁のコメントがあります。公共施設に関しては耐震性の低い建物が少ないので、ブロック塀の場合よりも速やかに対応ができるはずです。

学校施設におけるブロック塀等の安全点検等状況調査の結果について  

  https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/bousai/1407229.htm

学校施設におけるブロック塀等の安全対策等状況調査の結果について

  https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/bousai/1419918.htm

・沖縄タイムス「沖縄の学校ブロック塀安全対策 半数409校で終わらず」2019年8月9日

  https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/455833

 

 ところが、防災拠点となる公共施設の耐震診断実施率は52.6%と、沖縄県は全国で最も低くなっています(図4)。全国平均は90.2%なので、沖縄県の診断率は圧倒的に悪い数字です。沖縄県の場合、耐震化が必要かもしれない建物の数は少ないのですが(図1,図2)、それにも関わらず耐震診断に至っていない建物が他県と比べて非常に多いことがわかります。

図4 防災拠点となる公共施設の耐震診断実施率(昭和56年以前の建物対象)

 旧耐震基準の建物であっても耐震性が高いものが多いのであればまだよいでしょう。しかし沖縄県の場合、耐震診断を実施した中で改修の必要がなかった棟の比率は20.4%です(図5)。80%の建物は、改修工事が必要でした。沖縄県の場合、昭和56年以前に建てられた建物は改修工事が必要なケースが多いといえるでしょう。

図5 耐震診断を実施した中で改修の必要がない棟の比率

 

 さらにまずいのは、耐震診断を行って改修が必要であることがわかっても、沖縄県の場合、改修工事が進んでいません。耐震診断を実施したものの未改修である棟の比率は63.7%と、全国の中でも極端に悪い数値です(図6)。ただこれは平成30年度末での調査であり、この後沖縄県内でも耐震工事が行われています。宜野湾市役所も2020年度に耐震工事を行っていますから、現在はこの数字よりは改善されているはずです。しかし耐震工事に限らず、沖縄県の防災対策は必ず他県よりかなり遅れるという構造は変わっていません。

図6 耐震診断を実施したが未改修の棟の比率

 

沖縄の市町村における業務継続計画策定状況(令和元年度)

 地震などの大規模災害が発生したとき、地方自治体は災害への応急対策や復旧・復興を担うと同時に、通常業務も処理しなければなりません。災害時には電気や通信機器が使えず、さらに庁舎が被災するといった要因が重なり、急激に増えた業務を処理することが困難になります。かといって被災したから業務はできません、ではその地域の復旧・復興が何もできなくなってしまいます。

 そこで災害時にも地方公共団体の業務を継続させるために検討すべき事項のマニュアルが、内閣府で2010年に策定されました。その後見直しが行われ、2016年に「大規模災害発生時における地方公共団体の業務継続の手引き」が出されています。

 消防庁では、これにあわせて地方公共団体における業務継続計画の策定状況を毎年公表しています。今年の状況はまだ未発表ですが、大学で防災の授業をする際に使うため、2019年12月に公表された資料を分析し、沖縄県の自治体の状況を全国と比較しました。

地方公共団体における業務継続計画策定状況の調査結果(令和元年12月26日) https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/011226bcphoudou.pdf

 まず沖縄県41市町村の中で、2019年12月に業務計画を策定済の市町村は31団体です。これは県内市町村の76%です。全国47都道府県中、上から42位です。

 さらに策定した市町村でみても、3要素以下の団体が45%と、ほぼ半数の市町村で計画に定めるべき重要6要素を半分以下しか策定していません(図1)。ここで計画に定めるべき重要6要素とは、「①首長不在時の明確な代行順位および職員の参集体制」、「②本庁舎が使用できなくなった場合の代替庁舎の特定」、「③電気、水、食料等の確保」、「④災害時にもつながりやすい多様な通信手段の確保」、⑤「重要な行政データのバックアップ」、そして「⑥非常時優先業務の整理」です。

 全国では、3要素以下しか策定していない市区町村は22%です。沖縄の市町村では策定が全然進んでいないことがわかります。

(図1)計画に定めるべき重要6要素の策定状況

 

 では、上記6要素のどの策定が遅れているのでしょうか。そこで沖縄の市町村の6要素の策定状況を全国と比較しました。6要素のうち、「③電気、水、食料等の確保」はさらに「③-1非常用発電機」、「③-2燃料」、そして「③-2水・食料等」に細分されています。「⑥非常時優先業務の整理」は「⑥-1非常時優先業務の特定」と「⑥-2非常時優先業務ごとの役割分担等」に細分されています。

 グラフから、全体的な傾向は沖縄も全国も似ていることがわかります(図2)。「①-1首長代行」と「①-2参集体制」は90%以上であるのに対し、「③-2燃料」と「③-2水・食料等」は沖縄も全国も40~60%と低迷しています。

 いっぽう、沖縄が全国と違う点もあります、まず、「③-1非常用発電機」は全国よりも高くなっています(沖縄:80.6%、全国:75.2%)。いっぽう、「④多様な通信手段」、「⑤バックアップすべき重要な行政データ」、「⑥-1非常時優先業務の特定」と「⑥-2非常時優先業務ごとの役割分担等」は全国よりも10ポイント以上低くなっています。沖縄の場合毎年強い台風に見舞われるため、その際に発生する停電の対策として発電機を準備しやすかったのかもしれません。いっぽう、台風災害ではあまり問題にならなかった課題(特に⑤と⑥)については対応が進んでいません。④については機器の話なので、予算を付ければすぐに解決できそうですが、なぜ遅れているのかわかりません。

(図2)計画に定めるべき重要6要素の各項目の策定状況