潮の干満で活動が変化する超低周波地震

  背景

 超低周波地震をはじめとする「ゆっくり地震」は潮の満ち引き(潮汐)程度の非常に弱い応力変化で誘発されることが知られており、潮汐による活発化度は、プレート面の滑り易さ状態を示す指標として注目されています。しかし琉球海溝(南西諸島海溝)では超低周波地震が発見されてから間もないため、超低周波地震が潮汐で変化するかについて、さらにプレート面の滑りやすさについて調査されていませんでした。
 
図1 潮汐位相毎の超低周波地震の発生数(沖縄本島周辺)。沖縄では1日に満潮・干潮がそれぞれ2回ずつ繰り返す。干潮の時刻を0°(時間で表すと0時間)、満潮の時刻を±180°(時間で表すと±約6時間)で表して、角度毎のVLFEの発生数をカウントすると、満潮時に超低周波地震活動は低く、干潮時刻よりやや遅れて超低周波地震活動がピークに達する。

  研究方法の概要

 琉球海溝で発生する超低周波地震活動と潮汐を解析したところ、奄美大島から沖縄島付近では、超低周波地震の活動が干潮時に活発化し、満潮時に活動低下していました(図1)。さらに活発化には地域性があり、沖縄島周辺で活発化が最も高い一方で、八重山諸島では潮汐による活発化が見られません(図2)。
 潮汐による超低周波地震の活発化に地域性がみられることは、沈み込んだプレート面(浅部超低周波地震発生域)での滑りやすさが場所ごとに変化することを意味します。奄美大島から沖縄島にかけての浅部超低周波地震が発生する領域では干潮時にプレートが滑りやすくなっていることを意味します。
プレート面での滑りやすさに地域性がある原因として、以下の2つが考えられます。
@   プレート境界面での間隙水圧の地域性:沈み込んだプレート境界面にある流体の圧力(間隙水圧)が断層面に働く法線応力(図3)を低下させ、滑りを起こりやすくします。その大きさが地域ごとに異なり、沖縄島付近では間隙水圧が非常に高くなっている一方、八重山諸島では間隙水圧が沖縄島ほど高くない状態にあるという可能性です。
A   プレート面での地震性パッチの多さの地域性:プレート面では安定な滑りをする領域の中に地震性の不安定な滑りを起こす小領域(地震性パッチ)が多数分布しています。地震性パッチが少ないとその領域は弱く、潮汐程度の応力で破壊しやすくなります。地震性パッチが沖縄島付近では少ない一方で八重山では多いという可能性です。
 現時点ではどちらの可能性が高いかはわかりませんが、どちらにしてもプレート面上の滑りやすさが奄美大島〜沖縄島付近と八重山諸島付近で異なることがわかりました。

 

図2 超低周波地震活動の潮汐応答(潮汐によりどれくらい活動が変化するか。変化しない場合は0。正弦波状に変化する場合は0.5)の空間分布。潮汐によるせん断応力と比較している。

■ 潮汐によって超低周波地震が活発化するメカニズム

 地球上での潮汐は月と太陽の引力によって生じます。潮汐によって海面の高さが変化すると、海底に働く海水荷重が変化します(図3)。断層のある地点が干潮になった時、海面が低下し海底に働く荷重が減少します。そのとき断層に働く上下方向の圧縮応力は減少します。これはプレート面で起こる低角逆断層型地震を促進する効果を持ち(図3)、超低周波地震が活発化します。実際には潮の干満(海洋潮汐)の効果だけでなく地球そのものも月と太陽の引力で変形する(地球潮汐)ので、海洋潮汐による海水荷重の効果だけでなく、地球潮汐による岩盤への応力変化も計算しています。よって正確には干潮時刻と低周波地震活動を比べるのではなく、海洋潮汐荷重と地球潮汐による応力場での最大せん断応力の時刻と低周波地震活動を比較しています(図2)。

図3 海洋潮汐荷重の模式図。(右)満潮時に断層面(プレート面)に働く応力。断層面を押す方向の応力(法線応力)と断層を境に上盤側をずり上げる方向の応力(せん断応力)に分けられる。赤矢印は荷重による応力変化を示す。満潮時には海水の荷重によってせん断応力が減少し、かつ断層面を押す法線応力も増加するため地震が起こりにくい。(左)干潮時には海水の荷重が減少するため、せん断応力成分が増加し、かつ法線応力も減少するため低角逆断層型地震が起こりやすい。


■  効果

 この成果を用いると、「ゆっくり地震」から琉球海溝での沈み込んだプレート面での滑りやすさ分布を明らかにできる可能性があります。いまのところ超低周波地震の震源決定精度が悪いために詳細な滑りやすさ分布は不明ですが、震源決定精度が向上することで詳細な分布を明らかにすることが可能になります。おそらく超低周波地震は琉球海溝の海溝軸付近から島の真下までに及ぶような広範囲で起こっているわけではなく、各地の狭い範囲で発生しています。なので、超低周波地震が起こる場所・起こらない場所の分布が詳細に分かれば、歪をためやすい場所・溜めにくい場所が分かると考えています。
 さらに琉球海溝で発生する様々な「ゆっくり地震」の時間変化を追跡することで、プレート面にどのように応力が蓄積してゆくのかを探ることが可能になります。琉球海溝で発生する巨大地震津波のメカニズムを探る上で重要な意義をもつものです。
雑誌:Nakamura, M. and K. Kakazu (2017), Tidal sensitivity of shallow very low frequency earthquakes in the Ryukyu Trench. Journal of Geophysical Research (Solid), 122, doi:10.1002/2016JB013348.