台湾蘭嶼島の岩塊の調査 台湾の津波・台風波浪を探る

●はじめに
 台湾の南東沖にある蘭嶼島の海岸では、サンゴ石灰岩の段丘の上にサンゴ石灰岩の岩塊が多数見られます。これらの岩塊は津波で移動してきたのでしょうか?それとも台風などによる高波で移動してきたものでしょうか?台湾での過去の大津波の記録を掘り起こすため、蘭嶼島の岩塊が津波で運ばれたのかどうか、現地調査をおこないました。

  

蘭嶼島北海岸に分布する岩塊。岩塊はそれぞれ海岸から59m(標高4.1m、長径6.4m)、83m(標高3.9m、長径3.4m)の地点にある。


●蘭嶼島の位置と過去の大津波

 台湾はユーラシアプレートとフィリピン海プレートが衝突する場です。北東側の琉球海溝ではフィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込んでいます。台湾は頻繁に大地震が発生する場所ですが、津波に関する歴史記録はほとんどありません。過去襲った津波としては1867年に台湾北東部のキールンを襲った津波が有名です。しかし、それ以外の津波の襲来については台湾東部で大波伝承が残されているものの、あまり良く分かっていません。


蘭嶼島の位置
蘭嶼島の地図

●2012年天秤台風による蘭嶼島の被害

 
蘭嶼島は台風襲来のたびに高波に頻繁に襲われて来ました。例えば2012年8月には台風14号(天秤)が襲来し、島の西側では標高10m付近まで波浪が遡上し被害を受けています。

2012年天秤台風の波浪による開元港周辺の被害。標高9mの周回道路まで波浪による被害が生じている。
2012年天秤台風の波浪による開元港のガソリンスタンド近傍の堤防被害。

●数値計算結果

 過去に蘭嶼島を襲った津波についてはわかっていません。数値計算からは、例えば琉球海溝でM8.7の巨大地震が発生した場合、蘭嶼島にも遡上高10m近い津波が押し寄せる結果が得られています。
 そこで現地で地形および岩塊の形状を調査をし、さらに波浪・津波の数値計算をおこなって岩塊の挙動を推定しました。

波浪の数値計算結果。右図の黒丸は、岩塊が動き始める流速を示す。図で示した岩塊は、上の写真(左)の岩塊。Tは波浪の周期を示す。津波は琉球海溝でM8.7津波のケースを示す。

 それらの結果、これらの岩塊は蘭嶼島を襲う大きめの高波(50年に一度程度)で容易に移動してしまうことが分かりました。大津波がこの島を襲ったかどうかについては判明していませんので、何百年か前に大津波が島に襲来した可能性は否定できません。しかし少なくとも海岸にある岩塊はたびたび島を襲った大型の台風による高波で移動してきたと言えます。


参考:M. Nakamura, Y. Arashiro and S. Shiga, Numerical simulations to account for boulder movements on Lanyu Island, Taiwan: tsunami or storm? Earth, Planets and Space 2014, 66:128  doi:10.1186/1880-5981-66-128